皆さんスーツのお手入れはどのようにされてますか?
クリーニングに出すとお金もかかるし、持って行くのも面倒だし・・・。
できれば家で洗いたいー!って考えたこともあるんじゃないでしょうか。
しかし、簡単に水洗いできないことは皆さんも周知の事実。
ただ、”簡単に”というところがポイントで、正しい洗濯方法で丁寧に取り扱えば、実はウールのスーツだって水洗いが可能なんです。
こちらでは、そんなスーツの家庭洗濯についてご紹介します。
ウールが水洗いできない理由
まずはスーツを水洗いできない理由から確認しておきましょう。
「知ってるよ!縮んじゃうんでしょ?!」
それはそうなのですが、その原因をしっかりと理解しておくと、縮ませない対策を立てられるようになるのです。
収縮する
スーツ(ウール製品)を水洗できない一番の理由は収縮を起こしてしまうからです。
それではなぜウールを水洗いすると縮んでしまうのでしょう?
その仕組みはこのようになっています。
ウールの表面はこの画像のようなウロコ状になっています。
髪の毛をイメージしてもらうとわかりやすかもしれませんね。
このウロコは”スケール”と呼ばれています。
このスケールは水分を含むとこのように開きます。
このようにスケールが開くことによって、その隙間から水分を取り入れようとするのです。
しかし、この段階では縮んではいません。
縮む準備が整ってしまった、という状況になります。
洗濯では水分を含むと同時に揉み作用などの力が加わります。
そうすると、このように繊維同士が絡み合って解けなくなってしまいます。
スケールが開く→力が加わって絡み合う
この流れがウールが縮む原因になっています。
このように絡み合った状態になると元のサイズには戻れないので、結果的に縮んでしまいます。
これをフェルト化収縮とも呼びます。
色落ちする
スーツといえども繊維製品なので洗濯すれば多かれ少なかれ色落ちします。
水洗いはドライクリーニングに比べると色落ちしやすいので、スーツ独特の光沢感を失う恐れがあるでしょう。
洗濯前には色落ちチェックが必要になります。
風合いが変わる
安易に普段通りの洗濯をした場合には、全体的な風合いが変化する恐れがあります。
前途のフェルト化収縮を起こすと目が詰まったようなゴワゴワした風合いになります。
さらに、一般的な洗濯洗剤である弱アルカリ性粉末洗剤は、タンパク質を取り除く特徴があるので風合い変化は顕著に表れます。
普段着の洗濯物の場合には、タンパク質汚れを落とすこの性能はとても有効なんですが、ウールの洗濯には非常に不向きなんです。
スーツの洗濯方法
それでは本題のスーツの洗濯方法についてお話しします。
前項でウールのスーツを水洗いできない理由はご理解いただけたと思います。
再度まとめると・・・
- 水分を含み揉み作用が加わることで収縮する
- 弱アルカリ性粉末洗剤ではウールのタンパク質を取り除いてしまう恐れがある
- 普通に水洗いすると色落ちする危険性がある
洗濯の際にこれらすべてに対策していくことで、スーツも水洗いできるようになるのです。
洗濯前のチェック
そして洗濯前にはこのようなチェックも忘れずに。
- 色落ちチェックをしておく
- ポケットの中に忘れ物がないか確認しておく
- ほつれやスレ、穴あきなど損傷がないか確認しておく
- 目立つシミがあるか確認しておく
色落ちチェックは、洗剤の原液を目立たない場所に塗りしばらく置いた後、乾いた布を押し当てて色が移るか確認します。
この時点で激しく色移りする場合には洗濯せずにクリーニングを検討してくださいね。
また、洗濯表示も再度確認しておきましょう。
ウール100%が多いとは思いますが、もしもポリエステルの混紡でしたら洗濯は格段にやりやすくなります。
洗濯表示の読み方はこちらのページが詳しいです。
洗濯に必要なモノ
最初にスーツの洗濯に使うモノをご紹介していきます。
上手な洗濯には適した道具を使うことも大切です。
もれなく揃えてから洗濯することをおススメします。
中性洗剤
まずは洗剤。
前途の通り、一般的な弱アルカリ性粉末洗剤はウールの洗濯に対しては不向きです。
洗剤はデリケート衣類用の中性洗剤を使います。
代表的な中性洗剤はこちら。
[花王 1676848] エマール アロマティックブーケの香り 本体 500ml
花王さんからはエマール。
アクロン おしゃれ着洗剤 ナチュラルソープの香り 本体 500ml
ライオンさんからはアクロンという商品名で販売されています。
両方ともウール製品を洗うことに特化した洗剤になります。
スーツの洗濯にもこちらの洗剤を使っていきます。
洗濯ネット
洗濯ネットはいくつかの大きさを揃えておくと、とっても便利です。
スーツを洗う時に限らず、様々な場面で活躍してくれます。
サイズはスーツをたたんだ状態でピッタリ収まるくらいがベストです。
ちなみにこんな便利な洗濯ネットもあります。
これなら型崩れも起きにくいでしょう。
幅広ハンガー
(スーツデポ) SUIT-DEPOT ビジネススーツ用 ハンガー 黒 5本セット 31296-10×5
スーツのジャケットやスラックスはとても立体的な作りになっています。
そのため、干すときには肩幅がピタリと合った幅広のハンガーがおススメです。
このようなハンガーを使うと型崩れを最小限に抑えることができます。
クリーニング屋さんで貰える細いプラハンガーや針金ハンガーは使わないよう注意しましょう。
スチームアイロン
パナソニック 衣類スチーマー ブラック NI-FS470-K
スーツの洗濯にスチームアイロンは必須です。
後述しますが、実は洗うこと自体よりも、その後の最終仕上げの方がはるかに難しいのです。
できるだけスチーム量の多い、高性能なアイロンをおススメします。
手洗いの手順
さて準備も整ったところでスーツを水洗いしていきましょう。
今回は手洗いと洗濯機を使った洗い方の2パターンをご紹介します。
まずは最も推奨する手洗いからです。
手洗いのメリットはなんといっても自分の目で見て手で触って、スーツの状態を確認しながら作業できるところです。
「洗濯機を開けてみたら大変なことになってた!(汗)」なんてことがないので、大きく失敗することはありません。
洗浄液を作る
まずはジャケットやスラックスが浸かる程度の水に、デリケート衣類用中性洗剤を入れて洗浄液を作ります。
しっかりと洗剤を溶けこませた洗浄液を最初に作っておくのが収縮を抑えるポイントです。
このような洗剤は主にシリコンの作用でスケールが開きにくくなるような工夫がされています。
洗剤の効果が十分に発揮できるよう、適量でしっかりと洗浄液を作っておきましょう。
優しく押し洗いする
軽くたたんだジャケットとスラックスを洗浄液の中に入れていきます。
ここでは揉まない、擦らない、叩かないがポイント。
スケールが開いてもこのような力を加えないことで収縮を抑えることができます。
優しく水の中に押し入れる→浮かんでくる→もう一度水の中へ押し入れる
このような工程を数回繰り返したら洗浄工程はOKです。
水を入れ替えながら濯いであげましょう。
脱水は洗濯機で
脱水は洗濯機の脱水機能を使います。
ただし、高速回転に入って10秒ほどで止めてしまいましょう。
この程度でもほとんどの水分は取り除かれているはずです。
長時間の脱水はシワがつきやすく型崩れの原因にもなりますのでご注意ください。
形を整えて陰干しする
洗濯機からスーツを取り出し、幅広ハンガーに掛けて自然乾燥してあげましょう。
もしも幅広ハンガーが用意できなかったら、画像のように何本かのハンガーを同時に使って奥行きに合わせるのも効果的です。
縫い目を軽く引っ張り、整形しながら干すのがポイントです。
直射日光は避けて、風通しの良い場所で陰干しします。
これで洗濯工程は全て完了です。
洗濯機で洗う手順
洗濯コースの使い分けはこちらのページで詳しくご紹介していますが、ほとんどの洗濯機には手洗いに近い洗い方ができるプログラムが組まれています。
- 手洗いコース
- デリケートコース
- ドライマークコース
- 弱水流コース
このような名前の洗濯コースで、洗濯中にドラムがほとんど動かず極力負荷を抑えた洗浄が可能になります。
スーツはこれらのプログラムを使って洗濯していきます。
軽くたたんでネットに入れる
ジャケットとスラックスを軽くたたんで洗濯ネットに入れてから洗います。
洗濯機を使う時にはネットが必須です。
デリケート洗いができるプログラムで洗う
上記のようなドラムをほとんど動かさずに洗えるようなプログラムを選びます。
一度取り扱い説明書を見て、どのような動きをするのか確認しておいた方がいいかもしれませんね。
手洗いと同様洗剤をしっかりと溶かし込んだ後でスーツを投入していきましょう。
仕上げ方
洗い上がりの状態はこちら。
全体的にこのようなシワがついています。
どんなに丁寧に洗ってもこの程度のシワは発生してしまうのです。
そのため、スーツの水洗いは洗うことよりも、実は最後のアイロンがけが難しいのです。
9割がた乾いた段階でアイロンがけを開始します。
ポイントはこちら。
当て布をする
スーツのアイロンがけは基本的に当て布必須です。
直接アイロン面を当ててしまうとテカりが発生する恐れがあるからです。
吊るしたまま仕上げる
立体的に作られているスーツを平面的なアイロン台で仕上げるのはかなりのテクニックを必要とします。
できればハンガーに吊るしたままスチームを当てて仕上げましょう。
その際には下の方を手で軽く引っ張りながらスチームを当てるのがポイント。
引っ張るというよりも人間が着ているような状態を再現するイメージでしょうか。
仕上げ後の状態はこちら
いかがでしょうか?
全体的なシワも無くなり美しく仕上がりました。
このように仕上がれば大成功ですね。
ちなみに同じような洗い方でシルクのネクタイも洗濯することができます。
こちらのページに詳しくまとめているので、興味のある方はあわせてご覧ください。
スーツのアイロンがけは本当に難しい
ウール製品はシワが伸びやいのが特徴ですが、それは普通の状態の場合。
水洗いして収縮が発生し、きついシワもついている場合にはかなりの難易度になります。
もしかしたら上記のような簡単なアイロンがけではしっかりと整形できないかもしれません。
※それは洗い方やスーツそのもののポテンシャルによります。
これがスーツの家庭洗濯を、大手を振っておススメできない最大の理由なんです。
スーツのアイロンがけについてはこちらのページで詳しくご紹介しているので、一度ご覧いただき「できそうかな・・・?」とご判断いただくといいかもしれません。
スーツをアイロンがけする!初心者でもキレイに仕上げる基本動作と5つのポイント
プロのウェットクリーニング
クリーニング店ではどのようにしてスーツを水洗いしているのかというと、基本的には今回ご紹介した内容と同じような作業をしています。
もちろん技術や経験も豊富なので、より高品質に洗い上げることが可能なのは言うまでもありませんが、洗剤や道具もプロ仕様のものが揃っているのも大きなメリットです。
このような技術はウェットクリーニングと呼ばれ、”汗抜きクリーニング”なんかの名称でメニュー化されているんですよ。
もっとも技術を必要とする仕上げ工程では、熟練のアイロンさばきはもちろんの事、これらの機械も品質向上に一役買っています。
こちらはジャケット用のプレス機。
人間の上半身のようなボディにジャケットを着せると、温風とスチームが噴射されシワを伸ばしながら立体的に仕上げることができます。
こちらはズボンの腰回りを仕上げるプレス機。
やはり温風とスチームを噴射しながら仕上げます。
どちらも水洗いしたスーツを半乾きの状態のままセットすることで、収縮を矯正しながらシワを伸ばし、美しく仕上げることができます。
この枕のような道具は馬という道具です。
ハンドアイロンで手作業するときに使います。
例えば袖にスッと入れて縫い目を伸ばしたり、細かい箇所を仕上げるときに活躍してくれます。
クリーニング店ではこれらの道具を駆使してキレイに仕上げていくんです。
まとめ
それではポイントをまとめてみましょう。
スーツを水洗いするときは収縮を起こさないようにするのが一番の注意点です。
収縮を抑えるためには・・・
- デリケート衣類用中性洗剤を使う
- 洗濯中はできるだけ負荷を抑える
- 洗濯後は軽く整形して陰干しする
そして、その後のアイロンがけが最大の難関です。
- 基本的には当て布が必須
- できるだけハンガーに吊るした状態で仕上げる
強力なスチームが出るアイロンを用意しておくと仕上げがラクになります。
アイロンがけは苦手だよー!って方には正直なところかなりハードルが高い作業になります。
不安な方は無理せずクリーニングを検討してくださいね。
何年も着古したスーツは家庭で洗って、それ以外のお気に入りはクリーニングへ。
こんな使い分けがおススメです。